それでも

夢を見ない日は無かった。
昨日の夢見が悪くて体調が崩れた。
熱が出てけっこうしんどい。
それでも寝ているだけの生活も苦しい。
でもこれといってやることは無かったので目を瞑った。
また夢を見た。
今回の夢は肉体は無く、視界と聴覚だけのセカイだった。


僕ハ既ニ死ニ掛ケテイタカラ


どう足掻いても体は動かない。眼球をフル稼働させても僕が望む情報は入ってこない。
聴覚は?と注意深く耳を澄ましてみた。
そこには僕の声と誰かの声がした。


殺 した い  /  殺さ  ない で
   犯  した  い/     犯 さ      せろ
                    殴 り た い / 殴 り た く な い

強姦したい 
/
強姦されたい
           虐めたい/苛めたい


どっちがどっちを言っているのかは分からない。
どちらも同時に言っているから。
でも不思議と思う。
聞こえる僕の声は確かに僕の声だ。
でも、いつ口から発したものなのだ?
現に死に掛けている。声もそう出せない。喉の奥からヒューヒューと聞こえるだけ。
じゃあこれは本当に僕の声なのか?
そして近くにまだ誰か居るのか?
再び眼球を稼動させてみると、そこに何かが居た。
「まだ生きてるのか?」
男かと思いきや声から察するに女のようだ。
何とか言ってやりたいが生憎声が出せそうに無い。
「てっきり殺したと思ったんだけどな。何処で加減したか」
女はしゃがみ込んで僕の額に手をそっと置いた。
近くに見える女の顔は見知ったような顔でもあった。誰だったか。
でもまぁいいか。どうせ僕はあと少しで死ぬ運命だから。
「あんたさ、どうして私を殺さなかった?」
何か言ってる。でも何を言っているのかが僕に聞こえにくくなっている。どっちにしろ喋れないけど。
「あっそ。答えるつもり無いんだったらもう私が殺してやるよ」
また何か言った。口が動いていた。閉じたと思ったらしゃがんでいる格好から立ち上がった。
「あんたは私を生かす方を選択した。それが間違いだったんだよ、偽善者」
その言葉を最後に女は僕の傍から立ち去って行った。
心の臓に凶器の刃物を突き刺して。